日本財団 図書館


 

2.10 実験結果のまとめ
船体用鋼板KA32の小型及び中間型試験片を用いた海水中腐食疲労試験を行い、バラストタンクの腐食疲労特性に及ぼす各種要因について種々の検討がなされた。試験片は、母材切欠き試験片および溶接継手試験片(突合せ、角回しおよび中間型試験片)であり、無塗装材およびタールエポキシ塗装材が用いられた。海水環境および繰返し速度(0.17Hz)などの共通試験条件の下腐食疲労試験を実施し、以下に示す結論を得た。
(1)基準となる母材切欠き試験片の大気中および海水中SN線図が得られた。さらに、切欠き効果がKt(応力集中係数)を変数として定式化できることが示された。
(2)無塗装材の腐食疲労特性に及ぼす海水温度の影響を検討したところ、母材の疲労強度は、室温(25℃)から温度上昇に伴い低下するが、40〜60℃程度になると飽和する傾向がみられた。一方、突合せ溶接継手及び角回し溶接継手試験片では海水温度の影響がほとんど現れなかった。また、腐食ピットの成長を考慮した腐食疲労寿命予測法を提案した
(3)塗装材の腐食疲労特性に及ぼす塗膜厚の影響が検討され、母材に対する塗膜の効果として、公称応力の低下に伴う長寿命側で効果が大きくなる傾向を示し、腐食疲労寿命の改善がみられることを示した。観察の結果、腐食疲労き裂は、繰返し負荷後母材に生じた腐食ピットから発生し伝播することが分かった。一方、突合せ溶接継手、角回し溶接継手とも本実験のような比較的応力が高い領域では、機械的な荷重の繰返しにより、塗膜下の応力集中部でき裂が発生し、塗膜の効果は明確に現れないことが示された。
(4)塗装材の腐食疲労特性に及ぼす海水温度の影響が検討され、海水温度が25℃から40または60℃に上昇すると疲労強度はわずかに低下するが、無塗装材(曝露材)と比較すると、塗装による疲労強度改善効果は維持されることが分かった。さらに、温度上昇による疲労強度の低下は、腐食係数で表せることが示された。溶接継手塗装材については温度の影響はほとんどみられなかった。
(5)連続浸漬条件下、間欠浸漬下共々電気防食により疲労寿命が改善され、特に低応力域では、自然腐食条件に比べかなり長寿命となり大気中と比べても遜色がないことが明らかになった。電気防食の効果は、母材のみならず突合せ溶接継手においてもみられた。
(6)突合せおよび角回し溶接継手試験片における曲げ試験でも塗膜の効果が明らかになり、塗膜厚の効果は長寿命域で現れることが示された。
(7)中間型試験片による腐食疲労を行い、大気中および海水中において、構造モデルである中型試験片(第3章)とほぼ同一の疲労寿命が得られた。これより、短寿命域データから得られた結果ではあるが溶接構造体の疲労特性の把握が適切な形状寸法の模擬試験片を製作することにより、比較的経済的な軸荷重制御試験で実現できることが明らかになった。

 

以上より、小型および中間型試験片を用いたKA32鋼(315N/mm2級TMCP鋼)の海水中腐食疲労試験を行って各種因子の影響が明らかにされ、腐食疲労寿命評価を行なうための従来得られていなかった種々の基盤データおよび新しい知見が得られた。ところで、本研究では試験期間の制約があり、繰返し数として最大5x10^6回程度(繰返し速度0.17Hz)までのデータが主流である。実機の応力レベルを考慮すると、腐食疲労寿命評価に対する精度向上のためには、今後それ以上(10^7回以上)の繰返し実験データが必要であり、同時に長寿命域での塗装の効果や劣化、き裂発生のメカニズム等を検討することが重要な課題になると考えられる。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION